東京地方裁判所 昭和58年(特わ)219号 判決 1983年6月22日
裁判所書記官
萩原房男
(被告人の表示)
本店所在地
東京都葛飾区立石三丁目一〇番三号
株式会社ヤマヤス
(右代表者代表取締役山崎安太郎)
本籍
東京都葛飾区立石三丁目一〇番
住居
同区 立石三丁目一〇番三号
会社役員
山崎安太郎
大正一五年三月一一日生
主文
1 被告人株式会社ヤマヤスを罰金一二〇〇万円に、被告人山崎安太郎を懲役一〇月にそれぞれ処する。
2 被告人山崎安太郎に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社ヤマヤス(以下「被告会社」という。)は、頭書所在地に本店を置き、塗料・染料・工業薬品の販売等を目的とする資本金一七〇〇万円の株式会社であり、被告人山崎安太郎(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の仕入を計上し、たな卸の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五四年二月一日から同五五年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇三七三万七四一四円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)にかかわらず、同五五年三月三一日、東京都葛飾区立石六丁目一番三号所在の所轄葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五九九六万六八七九円でこれに対する法人税額が二一七四万一七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第六九八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額三九二三万三三〇〇円と右申告税額との差額一七四九万一六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、
第二 昭和五五年二月一日から同五六年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五五〇一万四〇〇二円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)にかかわらず、同五六年三月二八日、前記葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一二六万四九一〇円でこれに対する法人税額が二八七万八七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額二〇二四万四三〇〇円と右申告税額との差額一七三六万五六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、
第三 昭和五六年二月一日から同五七年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四五八九万七五二四円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)にかかわらず、同五七年三月三一日、前記葛飾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七六八万七〇二三円でこれに対する法人税額が九二三万五一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同社の右事業年度における正規の法人税額一六八五万二一〇〇円と右申告税額との差額七六一万七〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全般につき
一 被告人兼被告会社代表者の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書三通
一 中村時廣の検察官に対する供述調書
一 登記官作成の商業登記薄謄本
判示第二、第三の事実につき
一 岡本憲治、尾崎一郎の検察官に対する供述調書
判示各事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)ないし(三)修正損益計算書中の各公表金額欄記載の内容につき
一 押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五八年押第六九八号の1ないし3)
判示各事実ことに別紙(一)ないし(三)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき
一 収税官吏作成の総売上高調査書(右修正損益計算書(一)の勘定科目中の<1>。以下調査書はいずれも収税官吏の作成したもの)
一 期首商品棚卸高調査書(同(一)ないし(三)の各<2>)
一 期末商品棚卸高調査書(同(一)ないし(三)の各<5>)
一 商品総仕入高調査書(同(一)ないし(三)の各<3>)
一 手数料調査書(同(一)の<34>)
一 前期貸倒損失調査書(同(一)の<64>、<83>)
一 受取利息調査書(同(一)ないし(三)の各<48>)
一 債権償却特別勘定取崩益調査書(同(一)の<56>)
一 葛飾税務署長作成の証明書(同(一)の<63>、<81>、同(二)、(三)の各<58>、<63>、<77>、<81>)
一 価格変動準備金戻入額調査書(同(二)、(三)の各<58>)
一 価格変動準備金繰入額調査書(同(一)の<63>、同(二)、(三)の各<58>、〇)
一 価格変動準備金超過額認容調査書(同(二)、(三)の各<77>)
一 価格変動準備金積立超過額調査書(同(一)の<81>、同(二)、(三)の各<77>、〇)
一 交際費等の損金不算入額調査書(同(一)の<71>)
一 貸倒引当金繰入超過額調査書(同(一)の<76>)
一 減価償却の償却超過調査書(同(一)の<82>)
一 厚生費損金不算入(罰課金)調査書(同(一)の<84>)
一 事業税認定損調査書(同(一)、(二)、(三)の各<85>)
(認定賞与について)
別紙(二)修正損益計算書の<10>賞与及び<72>損金不算入役員賞与について、検察官(編者注「弁護人」の誤りと思われる)は、被告会社から被告人に対しての賞与六七万五一一三円の除外を主張する。そして、この点に関し被告人は、当初の査察段階においては右金員を被告会社から個人として受領した旨供述しているものの、公判段階においては有限会社山崎安太郎商店(以下「山安商店」という。)が受領しているのであって、被告人は個人として受領してもいないし、費消したこともないと供述するに至り、その供述に変化がみられる。
ところで、右金員を被告人が結局費消しているか否かをさておき、まず、被告会社が右金員を交付した相手方をみると、関係証拠によると、次のとおり認めることができる。
1 昭和五六年二月一四日、被告会社の当座預金口座から右の金額が払い出されるとともに、同日、右と同額が山安商店の普通預金口座に入金されているところ、右普通預金の通帳の右入金の欄には「隈元」と心覚えの趣旨と思われる鉛筆書きの記載がある。
2 一方、右の処理がされるに至った経緯をみると、昭和五五年一月ころ、被告会社が株式会社丸越に対しリベートを支払った際、同社から有限会社隈元玩具名義のリベート予定額約一七六〇万円の架空領収証を交付させたが、右支払の際、丸越から、被告会社とその関連会社の山安商店が隈元玩具ほか一社に対して有する売掛金の残額約一四〇万円を右リベート予定額から差し引いた金額のみを丸越に支払えばよい旨の了解を得たうえ、右差引残額のみを隈元玩具の口座(丸越が利用)に送金するとともに、右差引金額のうち前記六七万円余を山安商店の口座に入金するとの処理をするに至った。なお、右差引金額は、以上の架空処理により生じた被告会社じしんの裏資金であるところ、右六七万円余を被告会社が山安商店に支払うべき根拠は、両社が関連会社であるとの点を除いては何ら存しない。
そして、他方山安商店の前記普通預金口座が被告人の個人資産と混同し、あるいは右口座を形式的に経由するだけで右金員を直ちに引き出した等の特段の事情を窺うことのできない本件においては、結局、右金額は少なくとも被告会社からいったんは山安商店に贈与の趣旨で交付されたものであって、被告人個人に交付されたものではないというべきである。
以上のとおりであって、当裁判所は、仮にその後被告人が右金員を費消するなどの事実があったとしても、それは山安商店と被告人との間で別途の評価がされることは格別、右の点をとらえて被告会社から被告人への賞与の交付ありと解することはできず、したがって、被告人の金員費消の有無につき判断を進めるまでもなく、被告人の金員受領・費消をもって賞与支給をいう検察官の主張は失当である。また、検察官は、山安商店が被告会社から右金員を受領すべき正当な理由はないところ、山安商店は休眠会社でありその収入の大部分は代表取締役等の報酬等として支払われる実態であるから、被告会社が山安商店に入金したことじたい被告人への賞与支給と目すべきであるとも主張する。しかしながら、法的人格が別個の山安商店と被告人間において、被告人個人が山安商店への入金により直接金員を得たと同視できるような実質的な利益の享受者であるとの特段の事情は本件全証拠によっても認めることはできず、検察官の右主張も採用できない。
以上のとおりであって、別紙(二)修正損益計算書の<10>賞与<72>損金不算入役員賞与の当期増減金額は、いずれも零となる。
(法令の適用)
一 罰条
(一) 被告会社
判示第一、第二の所為につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項、判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項
(二) 被告人
判示第一、第二の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人につき、いずれも懲役刑選択
三 併合罪の処理
(一) 被告会社
刑法四五条前段、四八条二項
(二) 被告人
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第三の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
(求刑 被告会社罰金一四〇〇万円、被告人懲役一〇月)
よって、主文のとおり判決する。
出席検察官 上田勇夫
弁護人 荒川誠一郎
(裁判官 園部秀穂)
別紙(一) 修正損益計算書
自 昭和54年2月1日
至 昭和55年1月31日
株式会社ヤマヤス No.1.
<省略>
No.2.
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
自 昭和55年2月1日
至 昭和56年1月31日
株式会社ヤマヤス No.1.
<省略>
No.2.
<省略>
別紙(三) 修正損益計算書
自 昭和56年2月1日
至 昭和57年1月31日
株式会社ヤマヤス No.1.
<省略>
No.2.
<省略>
別紙(四) 税額計算書
商号 株式会社ヤマヤス
(1) 自 昭和54年2月1日
至 昭和55年1月31日
<省略>
(2) 自 昭和55年2月1日
至 昭和56年1月31日
<省略>
(3) 自 昭和56年2月1日
至 昭和57年1月31日
<省略>